神経衰弱状態をめぐって

 学生時代に読んだ西丸四方著「精神医学入門」(南山堂)を久しぶりに開いてみた。初版は1949年になっているが、1972年発行の増訂第17版である。当時、自ら朱線を引いた所を抜粋してみよう。

@実際何の病気もないのに、あるいはささいな故障を大げさに考えて、何か重大な病気にかかっているのではないかと心配するのは、心気(Hypochondoria)という。

A見るのも、聞くのもぴんとこない、人を見るとヴェールでも通したようで、平べったく絵のように生気がない。仕事をしても現にしているという実感がない。ここに私が今座っていてもそれが近く感じられず、他人が座っているようだ。たましいがないようだ。話しをしても心がなく口が動いているだけだ。離人(depersonalization)という。

Bこれから述べる「強迫」(Zwang)は、道を歩いていると細長いゴミが気になり、いちいち拾ってそれが何であるかを確かめないと気が済まない。つぎからつぎへとゴミを確かめなければならないので道を歩いていても苦しいが、確かめずに見過ごすことはできない。夜、寝てから戸の鍵を掛けなかったのではと心配になり、さっき掛けたことはちゃんと知っているが、もしかしたら掛けていなかったのではないかと心配を抑えることができない。
 それで、起きて見に行く。ちゃんと掛かっている。床にはいるとまた、鍵を掛けていなかったのではないかと心配にとりつかれる。どうにもならない。また見に行く。こういうことを20回も30回も繰り返すので、寝付けなくて困る。

C汽車(今日なら飛行機と言うところだが、当時はまだ汽車の時代であった)に乗ろうとすると恐ろしい。何も恐ろしいことはないことは知っていながら恐ろしさを抑えられない。仕方がないから乗らずに歩いていく。恐怖(phobia)である。(それには、閉所恐怖、高所恐怖、広場恐怖などがある。)

 以上、簡単に述べたこれらの諸症状をもって来所される方が増えているので、参考までに学生時代のテキストから抜き出しておいた。